【発酵好き大学生のつぶやき】わたしが味噌を仕込むワケ

【発酵好き大学生のつぶやき】わたしが味噌を仕込むワケ

2年前から手前味噌を仕込み始めました。仕込むのは1年に1度、からりとした寒さに絶えた若葉の香りがする頃。

いつもは塩の代わりに塩麹、コンソメの代わりに中華麹、砂糖の代わりに甘酒を使ったり…はきたらいいんだけれど、なかなか難しい。

(普段は実家暮らしでおばあちゃんが料理を振舞ってくれるから、という言い訳を添えて…。)

私の中で続いている発酵活動と言えば、年に1度の味噌仕込みくらい。

味噌を仕込むようになったきっかけは、2年前。大学を1年休学し、日本をふらふらと巡っていた時に住み込みでお世話になった愛知県の小さな麹屋さん。

なぜ麹屋?

そこから説明しなければいけませんが、これはまたおいおいどこかで。

その麹屋では、麹を作る他に、冬から春にかけて手前味噌を仕込むワークショップも開いています。はじめての味噌仕込みは、麹屋さんの家の縁側で、ワークショップの参加者の1人として、手取り足取り教えていただきながらでした。

そして今回は、私の数少ない手前味噌仕込みの経験から拾いあげたちいさな気づき、味噌が教えてくれた日々の暮らしの中で大切にしたいなと思うこと、ある意味、味噌の効能とでも言うのかもしれません。

そんなことについて、いち大学生が記してみようというわけです。

 

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2023年6月。じっとりとした季節がもうすぐやってきます。しんとしながらもやわらかな空気をまとう季節とおさらばする前に、味噌を仕込まねば。

慌ただしく、麹屋さんと山梨の味噌屋さんから手前味噌キットを取り寄せ、家族に手伝ってもらいながら、せっせこせっせこ仕込みます。大量の大豆と麹と食塩を混ぜては丸めてバケツにぎゅっぎゅっと押し詰めるという簡単な作業。

水煮されている大豆を送ってくれるので、なんと気軽に仕込めること。自分で蒸したりゆでたりするとなると、豆がやわらかくなるまで途方もない時間がかかります。

ガス代もばかにならない…。そんなこと気にせず、そんな時間も愛でられる心の余裕はもてるようになりたいところですが。

…と少々脇道にそれました。

手前味噌、一度に仕込む量は、バケツ3杯、12キロ。実家に5人で暮らしているので、毎朝のお味噌汁にして1年弱で食べ切る量です。

食べ頃の味噌は、バケツから小さなタッパーへ移して冷蔵庫で保存。バケツをキッチンへどっこら運び、タッパーに味噌を移す作業は、手前味噌を食べ切るまでの週に1度のルーティーン。

常温で風通しのよい場所で保管すると、3か月後の9月には1つ目のバケツ・米味噌の食べ頃。米豆ミックス味噌は約半年、米麦ミックスの甲州味噌は約9カ月寝かせます。

 写真は左から、米豆ミックス味噌、甲州味噌、米味噌。材料を混ぜてバケツに投げ入れる(空気を入れないようにする)工程は、家族や友人と楽しめるし、なによりスカッとします(小笑)

* 味噌の材料である麹の種類には大きく3種類、米麹・豆麹・麦麹があり、米麹100%、米麹50%×豆麹50%などで仕込むと味わいの違いが楽しめます

 

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味噌を何カ月も寝かせている間は、その存在すら忘れてしまうくらいほったらかし。点検したのは1度だけ。

麹の菌がお米や豆をぱくぱく栄養にして、勝手に味噌を作ってくれるのです。

そうして、夏が終わり秋がやってくる頃、バケツを引っ張り出してきて、数か月ぶりに蓋を開けるのです。

開けた途端にぶわっと広がる芳しさ。芳醇でとろりとした香り。この、バケツを開ける時の高揚感と香りを全身で浴びた時の幸福感。これがまず、手前味噌を仕込む理由のひとつ(小笑)。

写真は左が米味噌、右が甲州味噌。3カ月寝かせた米味噌は、薄い茶色でお米のつぶつぶがかわいらしい。甘くてまろやか、やさしい味。半年寝かせた米豆ミックス味噌は、どっしり茶色で大豆の旨みたっぷり。甲州味噌は、9カ月もほったらかしで1度しか点検していないのに、カビも生えずつるりむちむち、甘めで薄茶色。

実家ではバケツ1杯、4キロを、約3カ月で食べ終えます。

バケツいっぱいのお味噌を、冷蔵庫に入れるタッパーに少しずつ取っては移してを繰り返しながら。

 

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「明日、お味噌、おねがいね」

朝ごはんを作ってくれるおばあちゃんに頼まれます。バイト帰りの23時、翌日の朝のお味噌汁に必要だからとキッチンの薄明りの中せっせと移し替え。この作業、忘れてしまった日にゃあ明日のお味噌汁がインスタントになり、おばあちゃんの虫の居所も悪くなり、一日のスタートがキマりません。

とは言っても、この作業、私はきらいじゃありません。というのも、この作業は「時間を見直すきっかけ」をくれるから。

 

お味噌をタッパーに移す間、私の意識は味噌の中。わいわい発酵を促している菌たちの世界にどっぷりダイブしているのです。

「ふむふむ、バケツに残っている味噌も、前よりか色が濃くなっていやしないか(実際はあまり変化がわかりません)」、「今日も溜まり醤油が取れたということは、お味噌の密度が高くなって味わいが少ししょっぱくなっていくかしら」、「そういえば、ここ数回はカビを一切見なくなったわね、溜まり醬油を取るたびに水分量も減ってカビが好む環境ではなくなってきているのかしら」(溜まり醬油については後で説明アリ、悪しからず…)

こんなことをぼーっと思いながら、手だけはせっせと動かします。

こういう小さな発見を積み重ねていくと、自然(菌)が作るもの(味噌)は、自分がコントロールして作れるものではないということを思い知らされます。大豆と麹と塩のしょっぱいだけの塊が、いつの間にか味噌になっているのですから、なんだかすごいことが起こっているなぁと思うのです。

味噌ができあがる、発酵するということは、菌が生きているということ。菌がせっせと働いて発酵しているその間に私ができるのはその間に私ができるのは、カビが生えてきたら取り除くくらい。

長い月日をかけた自然の営みを間近で見ていると、その、どっしりと、ゆったりと、確かな時間の流れがあることを直感します。

 

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 2つ目のバケツ、米豆ミックス味噌だけから、溜まり醬油が取れました。

溜まり醤油とは、お味噌を作る過程でにじみ出た液体のこと(諸説アリ)。
タッパーに味噌を移し、次の補充のときにバケツのふたを開けると、底には濃ゆい醤油のような液体が。ぱぁっと広がる大豆の香り、丁寧にすくって香りごと瓶に閉じ込めます。

とろり、つやつや。スプーンに付いた液体をちろりとなめると、お米の甘み、大豆の旨み、まろやかな塩っ気。

ある日の朝、白米に溜まり醬油をたらりと垂らし卵を落とすと、お金がかからない贅沢卵かけごはん。

お味噌汁もズズズ…。

・・・こんなゆったりとした朝時間、今の私には到底、毎日できるものではないです。それでも、たまにそんな時間をつくれて、ふぅーと一息つくと、よし、また〇日後もこんな朝時間を過ごせるように、夜は少しだけ早めに寝て、朝は20分早く起きてみよう、となったりするのです。

ちょっとずつ、自分の生活の手綱を握っていくような、そんな感覚です。

心のエンジンをふかしすぎて、なんだか疲れてしまう日々の中で、味噌・菌が教えてくれたもうひとつの時間を持ち続けることは、もしかしたら、自分を少しずつ良い方向に向かわせてくれるきっかけになるのかも。

そんなことを考えたのでした。

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