味噌や作り手の方々のストーリーをつないでいく
【MISO PEOPLE'S VOICE】
味噌人:福岡県 蛭子屋合名会社 4代目 安藤 祐基さん
聞き手:ドットミソ代表 テキサス・アユミ
ーー 本日のゲスト、福岡県 蛭子屋合名会社の安藤 祐基さんにお話を伺います。どうぞよろしくお願いいたします!
安藤 祐基さん(以下安藤さん) よろしくお願いいたします。福岡県にございます蛭子屋合名会社という味噌蔵の4代目、安藤と申します。今年で創業108年目になる味噌蔵で、大正5年に私の曾祖父が福岡のこの筑豊という炭鉱町で始めました。
ーー 蛭子屋さんの味噌の特徴を教えていただけますでしょうか。
安藤さん 地域柄、甘口な米味噌や麦味噌、あと一番主流なのが合わせ味噌。甘めの味噌好まれる地域です。うちでは、そういった味噌以外にも、熟成期間の長いお味噌、長いといっても6ヶ月ぐらいなんですけれど、熟成した玄米麹で作った味噌も仕込んでいます。
文化的背景と環境から甘い味噌が好まれる
ーー ちょっと長めで6ヶ月の熟成とお伺いしましたが、実は一般的な米味噌と同じくらいの熟成期間ですよね。その他の味噌はもっと熟成期間が短いのかと思いますが、熟成期間が短いから甘いのか、文化的に甘いものが好まれるから短くなったのかどちらなのでしょうか。
安藤さん 両方ありますね。第一に文化的に甘味が好まれる地域ということがあります。歴史的な面で考えると、この辺は炭鉱で栄えた地域なので肉体労働の方も多く、しっかりした味付けのものや甘みが強いものがすごく好まれる地域だったんですね。甘味処も多かったようです。
加えて、比較的温暖なのでお味噌の発酵が進みやすく、3ヶ月ぐらいでお味噌が仕上がります。それに合わせて塩分量も低く麹の割合も高めになり、甘口の味噌を提供することが多くなる二つの側面があるのだと思います。
ーー 蛭子屋さんでは実に多くの種類の味噌がありますね。
安藤さん 仕込んでいる種類だけでいうと、一般のお客様向けの味噌は8種類、業務用などを含めると大体17種類ぐらいの味噌を仕込んでいます。海外にもお味噌を20年ぐらい出していて、海外向けのお味噌の量がすごく多いこともうちの蔵の特徴となっています。
ヨーロッパのスーパーに並ぶ蛭子屋の味噌
ーー 海外での販売もされてるということですが、どこの地域が輸出量が多いのでしょうか?
安藤さん ヨーロッパ、オーストラリアがメインとなります。長期熟成の玄米麹の味噌が向こうの現地スーパーに並んでますね。それと、今回出品しているディップタイプのものがフランスに行くようにもなりました。
ーー 今回のイベントでは、数ある商品の中から「カレーチーズ」、「コクトマト」、「鉄火味噌」の3種類のディップタイプの味噌をだしていただいています。
安藤さん この商品は開発して10年ぐらいになるんです。お味噌ってどうしてもお味噌汁のイメージがすごく強いので、それ以外にもいろいろな使い方ができるよね、もっとPRしたいよねということで私の母が開発しました。
その中の「鉄火味噌」は祖母の代から続いている伝統的なレシピのものです。なんで鉄火(てっか)というのか、実は私も知らないんですが(笑)
ーー 新感覚の味噌なのに、かなり昔から商品開発されていたのがすごいですね。
安藤さん お味噌汁にしたりお料理に混ぜ合わせたりというよりは、そのまま野菜などにつけるだけで楽しめるのが、このディップタイプのシリーズのポイントだと思います。
いろいろな形でお客様にお味噌を楽しんでいただきたいと、昔から味噌の形にこだわらず代々作り続けてきたのが弊社の特徴かと思っています。
ーー 食べてみるとわかるんですけど、鉄火味噌は具材がゴロゴロ入ってるんです!しかもこういったおかず味噌タイプは化学調味料や保存料などが入っていることが多いですが、蛭子屋さんのおかず味噌はすべて無添加。そしてしっかりおいしいので、本当に嬉しいですね。
安藤さん ありがとうございます。パンにもぴったりなので、味噌って実は洋食にも使えるんですというご提案もできる商品になっています。
トマトと味噌って相性いいよねだったり、カレーとクリームチーズと味噌はすごく相性いいんですよ、ということを伝えたいですね。
ーー 和食ではなく洋食へのアプローチの商品が多いのは本当に新しいですね。
安藤さん このタイプのおかず味噌は全部で8種類あって、随時新フレーバーの開発もしています。
ーー 安藤さんの一番のおすすめはなんですか?
安藤さん 出品しているものの中で一番好きなものはコクトマトですね。パスタにも使えますし、お湯に溶かしてスープにも使えます。そのまま溶かしてもいいですが、コンソメで少し出汁をとるとミネストローネになります!
あと、おすすめを一つに絞れなくてもう一つ(笑)。今回出品はしていないですが、「とりごぼう」という商品は、玄米味噌を使って鶏肉とごぼうと生姜を混ぜたものです。 これはご飯をぴったりで、個人的によく使っています。
味噌=味噌汁のイメージを変えていきたい
ーー 昔ながらの味噌と並行して新しい商品をどんどん開発されていますが、商品開発を続ける理由はなんでしょうか?
安藤さん 商品開発は基本的に母が行っています。
お味噌汁ってなかなか作るのが大変だとか、一人前だけ作りづらいとか、やっぱりそういうところから味噌の消費量がどんどん減っていっています。もっと身近に味噌を使ってほしい、なにかにつけて食べるなど気軽に味噌を食べてほしい、もっと味噌の存在を身近に感じてもらいたい、という思いから開発したというふうに聞いております。
ーー 安藤さんご自身、生まれたときから味噌がある生活かと思うんですが、味噌への思いをお持ちでしょうか。
安藤さん 生まれて物心ついたときから、家の横には味噌蔵があった生活なので味噌が身近にあって、味噌が嫌だったことはそこまでありませんでした。
やっぱり味噌汁はずっと好きでしたし、実家を離れて生活した時期もあったので、そのときに改めて家の味噌汁のありがたみを感じましたね。味噌のことはずっと好きで、改めて味噌の健康へのありがたみだったりを感じたのは社会人になってからですね。
ーー 味噌作りや仕事に関することでのこだわりはなんでしょうか。
安藤さん やはり、お客様に安心して食べていただけるものをお出ししなきゃいけないというところと、発酵食品という生き物に近い食品を扱っているので、衛生や安全への細心の注意ですね。安全性を守る規格も取得してきています。
あと、ちゃんと熟成したものをお客様にお届けできるように、というところは気をつけてます。
ーー ここまで多品種の味噌を扱ってらっしゃる味噌蔵さんはなかなかないと思いますし、その中でも衛生や安全に隅々まで配慮していくのは大変なことだと思います。
安藤さん 蔵は10人満たないスタッフでまわしているのですが、その中でも皆さん1人1人がすごくいろんないろんな部分に気を配りながらやっていただいています。だから100年という歴史が続いているんだなと思っています。
”身体に良いもの”を出していきたい
ーー 安藤さんの人生の座右の銘を教えてください。
安藤さん 私の中ですごく大事にしてる言葉がありまして、私の曾祖母から言われた言葉なんです。すごく当たり前のことなんですが、「人の体は自分の食べたものでできている」という言葉があって、それを意識するようになって自分自身の食べるものにも気を使うようになりました。
味噌という食品に携わっている中で、皆さんの身体のためにも、良いものをお出しできるようになれたらいいなと思っています。
ーー 素晴らしい言葉ですね、ありがとうございます。今後の目標があれば教えていただけますでしょうか?
安藤さん まだまだ模索中ではあるんですが、もっとお味噌を身近に感じられるものとして例えばもっと簡単にお味噌汁できたらいいよねって。ドットミソさんも昔作られてた日本の伝統的なインスタント味噌汁である「味噌玉」みたいなものをもっと提供できるようになれたらいいなと、今動いているところです。
ーー こちらも胸がワクワクするようなお話、ありがとうございます。
最後に10月27日まで開催中のニッポン味噌道中のお越しの皆様へメッセージをいただけますでしょうか?
安藤さん 今回出品しているおかず味噌をこの機会にぜひ手に取って、お味噌の新しい可能性に気づいていただけたらと思っています。北海道の方にもお届けできる今回の機会がすごくありがたいなと思うと同時に、皆さんぜひこの機会に手に取っていただきたいと思います。
ーー 安藤さん、貴重なお話をありがとうございました!