味噌や作り手の方々のストーリーをつないでいく
【MISO PEOPLE'S VOICE】
味噌人:長野県 新田醸造 若女将 森 恵さん
聞き手:ドットミソ代表 テキサス・アユミ

ーー 本日は新田醸造の若女将 森恵さんにお話しを伺います。どうぞよろしくお願いいたします。
森 恵さん(以下もりえさん) よろしくお願いいたします!長野県の上田市の隣にある坂城町というところにある新田醸造のもりえと申します。新田醸造は私の夫の実家の家業でやっている蔵になりまして、記録がなくて正式なことはわからないのですが、江戸時代の末期に創業した蔵になります。
信州白樺印みそというのが看板商品になっています。信州みそは米味噌がメインなのですが、うちはちょっと珍しくて大麦も少し入ってます。米と大麦を原材料にして、木桶で1年味噌を熟成させた後にまた違う味噌を2種類ブレンドして、3種類の味噌のブレンドというちょっと珍しい商品です。
オンライン販売に力をいれる新しいビジネスの形
ーー 新田醸造さんは他の味噌蔵さんとはひと味違い、SNSを活用しオンライン販売に力をいれていらっしゃるのがすごく印象的です。
もりえさん 他の味噌蔵さんがどうやってご商売をやられているかお話を聞くと本当にさまざまで。例えば、地元の給食で使われていて大きな発注があったり、卸で地元のスーパーで味噌を売っている会社さんもあるし、京都の白味噌では料亭さんからの注文がほとんどで1人1人のお客さんに売ることはあまりない、といった感じです。
うちがオンラインを頑張っている背景に、元々の新田醸造のビジネスの形があるんです。味噌蔵の場所が国道沿いにあって、割と車通りがある場所なんですが、3、40年前は観光バスで関東から旅行で来るお客さんの寄り道になっていました。バスツアーの中でお土産を買う場所として立ち寄っていただいく形を、夫の祖父ががうまく軌道に回してすごく盛り上がっていたんですけど、その後に長野オリンピックのときに高速道路ができてから観光バスが蔵の前の道を通らなくなってしまったんです。
観光バスの大きな事故もあったりで周辺の観光自体が右肩下がりになり、蔵の売り上げがすごく減少したっていう背景があるんです。
もりえさん コロナ禍は本当にもう大変で売上がピンチになったちょうど2年ぐらい前に、何とかしなきゃ、頑張ろうと思って夫と私が蔵に入りました。
戦略的にオンラインを頑張るぞというよりは、私も夫もIT出身でオンラインしか頑張り方がわからなかったのが正直なところです。まずは、自社のサイトでお客さんに買っていただけるように頑張ろうとインスタグラムに力を入れ始めたという経緯です。
ーー オンラインでは、今までの対面のお客様とは異なる層のお客様なのでしょうか。
もりえさん そうなんです。これまで観光バスで来ていただいた方はその後電話で注文していただくというのがほとんどでした。売り上げはほとんどが電話注文で、年齢層も80代や90代。
オンラインストアを始めてからは、20代から40代ぐらいの方々にご購入いただけるようになりました。昔は20代の方が買ってくださるなんて無かったので、かなり幅広くなったと思っています。
味噌の魅力を伝えていくインスタグラムの活用方法
ーー 新田醸造さんのインスタグラム、デザインも統一感もすごく素敵で目を惹かれますね。
もりえさん 最初は何を投稿したらいいのかわからなくて、自分でスマホで撮った写真で商品紹介とか蔵のこととかを投稿していたんです。お客さん的にはそれはそれで面白いとは思うんですけど、ずっとみその商品紹介をしてても飽きられちゃうなと。
そこで、こうやってみそを使ったら美味しく食べられますよというレシピ投稿を始めました。レシピに関しては、実はプロの料理家さんにお願いしていて、うちの味噌に合うレシピを大体3ヶ月に1回、季節ごとに1回5品ぐらいレシピを考えていただいてそれを投稿しています。
ーー どれもとてもおいしそうですが、信州白樺印みそのイチオシのレシピを教えてください!
もりえさん まずは豚汁をおすすめしています。うちで出している豚汁のレシピはちょっと珍しいんです。普通と違うのが、具材を切って焼いてるんですよ。切って焼いて、白だしを入れるんです。白だし入れてさらに炒めて、最後にだし汁を入れて温めた後に味噌を溶く。最初に具材を焼くことで野菜の甘みとか豚肉の旨味が出てより美味しくなるんです。
このレシピで白樺印みそで使っていただくと、すごく美味しいですよ。
新しいことに挑戦する環境がある蔵
ーー 老舗の味噌蔵さんのなかでは新しいことに挑戦する難しさを聞くこともありますが、そういったチャレンジがしやすいことにはなにか理由があるのでしょうか。
もりえさん 義父と義母も現役なのですが、オンラインについてはほとんど任せていただいています。20年以上働いているスタッフさんが何人もいて、味噌を作って詰めてお客様に届けるところは、もうみんな慣れています。ただ、デザインをこういうふうに変えたいとか、ネットで広告出したいみたいなことは、私と夫で相談して判断しながら決めています。
ーー おふたりの熱意もそうですし、新田醸造さん自身にも挑戦をし続けるチャレンジ精神があるのかなとお伺いしながら感じました。

ーー もりえさんご自身、味噌の仕事に感じる難しさはありますか?
もりえさん 私個人の感覚でいうと、ITの仕事では、写真撮ってページに載せて、いつでも差し替えができるんです。
でも、味噌は今から作っても商品ができあがるのは1年後です。うちは長年やってるから去年作ったのを売るっていうのを繰り返しているんですけど、新規で初めて起業したら1年後まで売るものがないことになってしまう。作ってから売れるようになるまでの期間がすごいかかるのはとても難しいですよね。
あと、リアルなものを作るときに最初にかかるコスト。4月にロゴを一新したんですが、ロゴ入りのパッケージやダンボールだったり、箱を作るときには木型代がかかるから最初に数十万かかりますみたいなことがあまり今までなかったので、製造業の難しさを感じました。
オンラインだからこそできる一対一の対話を大切に
ーー 仕事で大切にしていることはなんでしょうか。
もりえさん 電話注文ではお客様との接点が電話だけだったので、何かお知らせをするときにはダイレクトメールや葉書を郵送するしかなかったんですけど、オンラインではお客様とLINEで繋がることができて、直接一対一のお話ができるようになったのがすごく嬉しいなと思っています。
おすすめのレシピをお伝えしたりとか、ご質問がきたときには直接DMで返したり、ただ配信するだけじゃなくて、お客さまと一対一で会話させていただくことを大事にしています。
ーー 新しい挑戦を続けているみなさんですが、今後の目標を教えてください。
もりえさん 最近はお渡しできるようなギフト用の箱を頑張って作っています。
4月にパッケージをリニューアルしてかわいくなったことがきっかけなんですが、これまで味噌は習慣的にギフトに選ぶことは少なかったと思うんですよね。でも、うちの味噌をご愛用いただいてるお客さんの中で小さいサイズをたくさん買ってお友達に配ってる方がいらっしゃって。そこでギフトセットを作って、味噌をギフトに渡すものとして楽しんでいただきたいと最近頑張っています。
ーー 確かに信州白樺印みその200gのパッケージ、すごくかわいくて贈りたくなります!
もりえさん ありがとうございます。ちなみにそのギフトボックス、もうすごい大変なんです!ただ箱を作るだけじゃなくて、AさんがBさんに贈りたいときに送り状を貼ってそのまま配達できるように送り状のサイズに合わせて邪魔にならないデザインを考えたりとか、サイズが違う商品を詰めたときに開けたときにどう見えるようにするかとか。
ーー それは楽しみですね。今年のお歳暮に間に合うことを期待しています!
もりえさん ありがとうございます。年内11月、12月のどこかにはリリースしたいなと頑張っています!
もう少し先の目線でいくと、今もすごい古い製造の機械を使っていたり、味噌の充填の機械も1個しかないので、スタッフさんが手作業で頑張ってくださっているので、そこに投資をしてスムーズに製造と梱包、出荷とお届けまでできるような体制にしていきたいですね。

北海道初上陸の新田醸造の味噌
ーー 最後に、今行われているイベント「ニッポン味噌道中」にお越しの方々にメッセージをいただけますでしょうか。
もりえさん そもそも催事に出たことがあんまりなく、北海道はたぶん新田醸造史上初なんです。本当に貴重な機会をありがとうございます。
お客様でも北海道に住んでる方とかご旅行に行かれる方がいて、買ったよっていうお声がけいただいたりしてすごい嬉しいです。ぜひ近くにお住まいの方やご旅行の予定がある方はお立ち寄りいただけたら嬉しいです。
あと、今回の催事の味噌の幅が本当にたくさんあって、たくさんの種類の味噌を一度に1購入できることは本当になかなかないですし、全部スーパーで売ってないような珍しい味噌ばかりだと思うので、ぜひ皆さんにご注目いただけたら嬉しいです。
ーー 今日は新しいマーケティングやブランディングの話まで、本当に貴重なお話しをありがとうございました!