味噌や作りての方々のストーリーをつないでいく
【MISO PEOPLE'S VOICE】
味噌人:愛媛県井伊商店 井伊友博 さん
聞き手:ドットミソ代表テキサス・アユミ
ーー 本日のゲストは愛媛県の井伊商店 井伊友博さんにお話をお伺いします!井伊さん、どうぞよろしくお願いいたします。
井伊さん はじめまして、井伊商店三代目の井伊友博と申します。うちは創業が昭和33年で、その時からずっと麦味噌一つ、1種類だけ作り続けている味噌蔵になります。
僕含めて、今現在は僕と父と母の3人で味噌づくりをやってます。
戦後から変わらない三代続く味噌づくり
ーー 場所は愛媛県の宇和島でいらっしゃいますよね。創業時から変わらない場所でやってらっしゃるんですか?
井伊さん 製造の場所だけは戦後のままです。販売とか味噌を詰めるスペースは一度改装してるんですけど。麹室とか種付けとか、そういった部分はもう戦後のまま今も使ってます。
ーー 味噌の色が綺麗な色ですね。
井伊さん 今年猛暑で結構赤くなったんですよ。理想の色ではなかったんですけど、どうしても天然醸造のために年間通して同じ色にすることが難しくて。今年は特に夏が暑かったんで、ちょっと赤っぽくなってます。
麦と塩だけの全麦麹の味噌
ーー 普通の味噌づくりは、麹と大豆と塩を混ぜて作りますが、井伊商店さんの麦味噌はかなり違いますよね?麦と塩だけの全部麹のお味噌。
井伊さん 全麹のお味噌って実際厳密に言うと、味噌じゃないんです。なのでうちは、一括表示の名前では、全麦麹味噌って今書いてます。全麹の麦味噌を作っているのは、近所にはうち含めて3社。ちょっと離れたところにも3社ほどあって、日本でも多分6社しかないんじゃないかなと思います。
ーー 全麹である麦味噌の特徴はなんですか?
井伊さん 一番の特徴は、やっぱり全部麹の味噌。あと製麹(せいきく)時間も短いっていうのが一つの特徴です。24時間製麹で出麹(でこうじ)してます。
麹が発熱しだして本当熱い時に出す。麹が元気な状態に出すような味噌作りをやっている地域ですね。
なんで全麹かっていうのは、こっちは漁業が盛んで。魚を食べるときに、臭みがあったりするのを消すのには、やっぱ麹歩合が高いお味噌がいいということで、全麹になったっていうのも聞いたことはあります。
ーー 味の特徴はなんでしょうか?
井伊さん 麹の香り高さと、あとまあ、もちろん全部麹なんで、甘いです。この地域は調味料何でも、甘いお味噌や醤油がほとんどですね。
昆布出汁とあわせた郷土料理さつま
ーー 麦味噌を使ったおすすめの味噌の使い方を教えて下さい!
井伊さん こっちの郷土料理で「さつま」と言って、宮崎の冷や汁に近いんです。昆布だしのだし汁に白身魚、鯛とか鯵とかそういったものを素焼きにして、麦味噌とすります。
家庭で作る場合は、アルミホイルの上に麦味噌を敷いて、ちょっとトースターかなんかで炙って。ちょっと焦げるぐらい香り出して、昆布のだし汁に入れて、一緒にまたすり鉢で練って、ご飯にかけて。ネギとかミョウガとか薬味を散らして食べることが多いですね。
豚肉と野菜の味噌炒めもおすすめ
井伊さん うちの味噌は豚の脂とも相性がいいですよ。大根とか人参とかでもいいですし、野菜と豚肉を炒めて、うちの甘めの味噌をいれて。豆腐も一緒に入れると本当美味しいです。ビールと最高に合いますね。
ーー そのまま舐めても塩分控えめで甘くてすごい美味しいですよね。
井伊さん そうですね、お客さんの中ではそのままご飯にのせて食べる人も実際いますよ。こっちだと鯛味噌といって、小さい鯛と味噌とみりんと砂糖と醤油を混ぜて、瓶詰めにしてご飯にのっけて食べるような商品もあります。
ーー 先ほど、郷土料理のさつまでは昆布出汁と合わせるとおっしゃってましたが、味噌汁の出汁も昆布なのでしょうか?
井伊さん やっぱ魚がよう取れるっていうのもあって、出汁はイリコが美味しいですね。僕なんかはちょっとカツオで取ると妙に上品になりすぎる感じがあって。やっぱ煮干しとか。それに昆布でしいたけとか入れたら贅沢で美味しいです。
麹菌をみようとすることが大切
ーー 井伊さん自身が味噌作りや仕事に対してのこだわりはなんですか?
井伊さん 僕らみたいな醸造業やってる人は皆さんそうやと思うんですけど、やっぱ麹の作りが一番大事なんですよね。麹菌って目に見えんもんなんですけど、それを見ようとすることが大事なんかなとは思ってます。
生き物を相手にするってなると扱い方が大事になってきます。あと、蔵癖(くらぐせ)っていう言葉があるように、戦後からの菌が住み着いとるとこなんで、そういった目にみえないものを見ようとしている部分もあります。ちょっとアホらしいんですけど。
ーー それを聞くと、ちょっとグッときますね。実際、見えた!っていう時はあるんですか?
井伊さん 例えば桶仕込んで、味噌と桶の際の方とか、味噌のたまりみたいなのが出たりする時期もあるんですよ。時期によって、暑い時期だったらボコボコボコボコいう感じ。そういったのを見ると、あ、生きとるんだなっていうのはやっぱ実感しますね。
本に書いてないことを肌で感じる喜び
ーー 美味しい味噌づくりの秘訣はありますか?
井伊さん 僕、もともと別の仕事をしてたので。大学卒業する頃は建築家になりたかったんです。本当真剣にやってたんですけど、家のいろいろな事情もあって、帰ってきたんですけど。
なので、最初は本当無知な状態でこの業界にちょっと飛び込んだんで。最初は色々と本とかを読みあさって知識だけを身につけて作業しているところが大きかったんです。
それと同時に、仕込みをしていると、今まで読んで来た本が、実際、これってこういうことなんだなとか。それ以外にも、人として感じれるような部分。そういったところは本にも書いてなかって、自分が肌で感じた部分を知れる時が、味噌の作りにおいて喜びみたいなところになってます。
大切なものは目に見えない
ーー 人生の座右の銘をお伺いできますでしょうか?
井伊さん まあ座右の銘じゃないんですけど、さっきの話でもちょっと通じるとこがあるんですけど、ちょっとパクリになるんですけどね。「星の王子様」の本に出てくる有名な言葉で、「大切なものは目に見えない」
あれって結局、人間の内面的な部分なんですけど、それを麹に当てはめている部分はあります。実際、麹菌とか酵母とか見えないものがやっぱり大事なんだなって意識しながら仕事はしてます。
ーー 目に見えないものが大切なもの。菌と向き合う味噌づくりのの真髄のようでグッときました。ありがとうございます。
ーー 北海道や本イベントにご来場のお客様に一言お願いします。
井伊さん 北海道で味噌の取引はなくて、もう個人様しか取引してないんですよ。北海道でこういったイベントに出品させてもらったことは初めてですし、北海道にはない味噌だと間違いないく思っているので、ぜひこの一ヶ月間手にとってみてほしいと思います。
自宅の味噌と合わせて新しい味の発見を
井伊さん 北海道の味噌の食文化がちょっとわかんないんですけど、もしうちのお味噌がちょっと白っぽかったり、ちょっと甘めだからといって、手を伸ばすのをやめようって思った方はですね。名古屋とかの八丁味噌とか赤いお味噌と合わせて使うと本当に美味しいというお客さんが結構います。
ご自宅で今使ってるお味噌に、うちの全麹の麦味噌を合わせてもらうと、きっと新しい味の発見があるかなと思いますので、ぜひあの試してもらえたらと思います。
ーー 井伊さん、貴重なお話ありがとうございました!
インタビューライブのアーカイブでは、蔵の様子も見れますのでぜひごらんください!