【MISO PEOPLE'S VOICE】vol.006 萬年屋 6代目女将 今井香織さん

【MISO PEOPLE'S VOICE】vol.006 萬年屋 6代目女将 今井香織さん

味噌や作りての方々のストーリーをつないでいく
【MISO PEOPLE'S VOICE】

味噌人:長野県 萬年屋 6代目女将 今井香織 さん
聞き手:ドットミソ代表テキサス・アユミ

ーー 本日のゲストは長野県 萬年屋 今井香織さんです。どうぞよろしくお願いいたします。

今井香織さん(以下今井さん) 今井です。よろしくお願いいたします。

ーー 萬年屋さんは、私がドットミソを創業して初めてやりとりをさせていただいた味噌蔵さんで、本当に何もわからないときから私の背中を押してくださっていました!

今井さん ドットミソさんのインスタを見てあまりにかわいい味噌玉を作っていて、思わず私がコメントしたのが始まりでしたね。私も味噌玉ワークショップを開催したこともあったのですが、こんなにかわいいのがあるんだ!って。

ーー そんなに昔の話じゃないんですけど、当時はSNSで蔵や味噌のことを発信されている味噌蔵さんってそんなに多くなかったので、その中でSNSをしっかり活用されていることが印象的でした。

今井さん あのときはちょうどコロナが始まって、何か新しいことをしなくてはという時にインスタグラムをやってみたらどうかと知り合いに言われて。それからやり始めたんです。それでアユミさんとも出会いましたね。

松本城の近くで190年以上続く蔵

ーー 萬年屋さんは長野県の松本に蔵があります。

松本城の近くにお店がありお店の後ろが全部工場になっていて、そこでお味噌とお漬物を作ってます。あとは、支店が松本城へ行くメインストリートにあって、そこで買っていただくことも多いですね。

ーー 今井さんご自身はご結婚されて味噌屋の女将さんになられたんですよね。

今井さん はい。東京で普通のOLをしていて、父の出身が松本だったので主人と出会い松本に来て、それから味噌屋の女将になりました。

6代目になります。創業から190年以上になるんですね。この場所でずっと麹や味噌を作っています。

失われつつある伝統製法「味噌玉造り」

ーー 今回、ニッポン味噌玉道中で紹介しているのが、『長熟』という信州味噌、そしてとっても特徴がある『極味』という味噌です。



今井さん 極味は味噌玉造りという味噌で、作り方がすごく変わっているんです。普通の味噌造りでは大豆を煮たものに塩と麹を混ぜるんですけれども、味噌玉造りではまずは蒸した大豆だけで一度熟成をさせます。

ーー ドットミソでも作っていたような味噌と出汁を混ぜて作る、いわゆるインスタント味噌汁になる「味噌玉」とは全く違いますね。

今井さん 大豆だけを煮てつぶしたものを昔から『味噌玉』っていうんです。大豆を煮て潰してまとめたものを3週間熟成させると、大豆の中に蔵の常在菌が入っていくんですね。

普通の味噌づくりでは先に塩を入れますよね。塩には殺菌作用があるので、普通の味噌づくりではそういったことは起こらないんです。塩を入れないで熟成させるので、いろんな蔵の常在菌が大豆の中に入っていく。

ーー  味噌の原型は麹を使わないんですね。

今井さん 『味噌玉』を3週間熟成させてカビが生えてくるんですけど、そのカビが麹の代わりになって、そこに塩と水だけをいれて作っていたっていうのが味噌の原型のような作り方なんですね。

味噌玉造りは昔は家庭でも仕込んでいたのですけれど、手間がかかるのでもう誰も作らなくなってしまった仕込み方なんです。

"あめ"を出す菌や微生物の働き

今井さん 味噌玉を最初に発酵させる過程で、"あめ"と呼ばれる白い泡のようなものがプツプツとわいてくるんです。

ーー  菌の動きを目で確認できるのは、通常の味噌作りの過程では無いことですよね。

今井さん  萬年屋では、大豆を蒸して使っています。煮ると”あめ”が出ないんですね。煮ると大豆の水分が多くなるからではないかと思います。その少しの差は微生物の働きなので、微生物にも聞いてみたいものですね。

大豆を蒸しておいておくと、炭酸ガスが固まってアメという形になって、泡が出てくるんですよね。シーンとしている夜に、プチ、プチっと”あめ”が音をだしながら出てくるんです。本当に面白いなと、菌は生きてるんだなと思います。

ーー  それはとても神秘的ですね。

今井さん 主人が、”あめ”の音がするから夜に来てみなって言うので、わざわざ夜に工場に行ってみたら、本当に音がして泡が出てくるんですよ。

機械化できない手作業の行程

今井さん 味噌玉にカビが生えたら、それをひとつひとつ手で洗っていきます。鏡餅を飾っておくと鏡餅が硬くなってカビが生えてきますよね。そんなイメージで、カビが生えてくる頃には硬くなるので、硬くなった味噌玉を水の中に入れて1時間ぐらいふやかしてから、一つ一つ手作業で洗っていくんです。

ひびが入ってるところは全部ヘラで掻き出して、カビの胞子や表のカビの部分を全部取っていく。これが大変で一般家庭ではやめてしまったんですよね。そういうところは機械化ができないので。

ーー  実際、私も一部の工程を見させていただいたときに、想像以上に重労働で驚きました。

今井さん 味噌玉を洗うまではまだできるとしても、今度は砕くのが大変。家庭では、だいたい臼と杵でついて割るとか、石臼で引くとか、カンナで削り取るとか。そういう手間がすごく大変で、もうやらなくなってしまってますね。

大豆と麹と塩を混ぜるだけの今の味噌の作り方だと1日で終わりますし、味噌がそんなに硬くなることもないので。

米が高価だった頃の麹を使わない味噌づくり

今井さん 味噌玉造りは古い味噌の作り方で、味噌玉にカビを生やして砕いて、塩と水をいれて作る。1300年ぐらい前、大陸から日本に味噌が伝わってきたときとほとんど同じ作り方です。当時は麹もいれないで塩と水だけで作るんです。

なぜかっていうと、昔はお米ってすごく貴重なもので、庶民はヒエとかアワとかを食べているので、米が原料となる麹はなかなか作れません。大豆を味噌玉にしてカビを生やして、周りにつく菌が麹の代わりになって、それに塩と水だけ入れて3年くらいたつと味噌になったものを使っていたんですね。

江戸時代に庶民が白米を食べられるようになって麹が作られるようになった、江戸時代の後半くらいに味噌にも麹を使うようになったと言われています。

ーー ありがとうございます。歴史的背景から考えるとすごくわかりやすいですね。今は、味噌玉造りで味噌を作られている味噌蔵はどれくらいなのでしょうか。

今井さん 数件、その中で長野県内で大体5軒くらいと言われていますね。

乳酸菌や酪酸菌が蔵にいることを証明

うちの蔵の常在菌の中には、チーズと同じ種類の菌や乳酸菌、今注目されている酪酸菌(らくさんきん)、あとは面白いところだと納豆菌なんかも出てきました。それが味噌玉造りの味噌の中にもいるんです。

ーー 乳酸菌、酪酸菌!さまざまな菌がたくさん入っているんですね。

今井さん そうなんですよ。同じ味噌玉造りでも必ずそういった菌が入るかというと、そうではないみたいなんです。たまたまうちの蔵にそういう菌がいたっていうことで。たまたまですね。

味噌玉で作らない味噌もあるんですが、それには酪酸菌や乳酸菌はほとんど出てこないんですよ。だからやっぱり味噌玉ってこと自体が大切なことなんですよね。

ーー 実際に蔵にはなんの菌がいるか調べられたとか。

今井さん 酪酸菌がちゃんといるということを調べたくて、去年分析機関に調査を依頼して裏付けがとれました。

昔からそういった菌があるという研究結果は出ていたようなのですが、戦後のどさくさでどこに資料があるかわからなくなってしまったので、もう一度きちんと皆さんにお知らせしたいと思って。

分析機関にかけて、酪酸菌もある乳酸菌もある、いろんな身体に良い菌がいっぱいあるっていうのが出てきました。

チーズの味と香りがする味噌玉造りの味噌

ーー さまざまな菌が味と香りにも関わっていますよね。萬年屋さんの味噌玉造りは本当にチーズの味がする味噌!

今井さん 洋食のシェフの方が使ったりもするんですよね。味噌の味があまり表に出ないっていうか、コクはでるけれども味噌っぽくなくすごく使いやすいと。いろんなソースの隠し味に使ってみたりされてるようです。

ーー 香織さんご自身、萬年屋の味噌を最初に食べたときの印象はどうでしたか?

今井さん こんな味噌、食べたことがなかったです。すごく美味しいと思いました。

うちの子供たちは毎日食べているから、そんなに美味しいと思わないみたいです(笑)。本当に子供の頃から食べて、当たり前だと思ってるので。

やっぱり外から入ってきたからこそ絶対に美味しいのがわかるので、販売するときにも思い入れを込めて、お客様にいろいろとご紹介したりするんですよね。

まずはそのまま食べてほしい味噌玉造り

ーー 極味や長熟の美味しい食べ方を教えてください。

今井さん 極味はきゅうりとか野菜につけたら美味しいと思います。皆さん、直接つけて食べて美味しいお味噌だっておっしゃるんですよね。

極味とマヨネーズとか合わせてディップみたいにしたり。あとは粒がある方のお味噌を買われて、ご飯に直接つけて食べるなんて方もいらっしゃいます。

極味は味噌汁にすると優しい味わいになります。きつくない味噌なんです。週末なんかのちょっとゆったりした時間に味噌汁にするといいですね。長熟は他の味噌と合わせるとすごくコクがでます。お手持ちのどんなお味噌でもいいので合わせるといいと思う。長熟でナス味噌を作るとすごく中華風。回鍋肉とか茄子味噌とかガッツリ系のおかずにもおすすめです。

超熟と極味を合わせて豚汁を作るのが、絶対おすすめですね。

ーー 個人的には、極味のすり味噌の優しい味わいも大好きです!ぜひリッチな味わいを直接食べてほしいですね。

今井さん そうですね。味噌ソースはお客様から教わることもあって、簡単なところだとマヨネーズとかめんつゆとかで伸ばして、ディップで食べる。

あとは、極味とヨーグルトを混ぜるんですよ。ヨーグルトソースがいろんなものに合う。すごく便秘にいいらしくて、便通が悪い方がヨーグルトと味噌の合わせソースを食べ始めたら体調が良くなったっておっしゃって、いつも買いに来てくださいます。

ーー ヨーグルトと味噌は面白いですね!極味の乳酸菌との相性もよさそうです。ぜひやってみたいと思います!

(大豆をすくう重作業をされる今井さん)

味噌玉造りの菌の良い作用を知ってもらいたい

ーー さまざまなことに挑戦し続ける萬年屋さんですが、今後どのようなご活動を考えていらっしゃいますか?

今井さん やっぱり味噌玉を皆さんに知っていただきたいっていうのが、まずひとつですよね。

味噌玉造りの味噌にはいろんな菌がいるので、体調が悪い方にもおすすめしたいです。例えば健康ラボみたいなところとか、お医者さんとかとコラボして、便秘で本当に苦しんでる人とか、調子がいまいちな人たちに知っていただければ、ただ味噌を売るだけじゃなくて人の役にも立ててるんじゃないのかなと思います。

ーー 味噌自体が身体にいいものですし、味噌玉造りの味噌はいろんな菌が住んでいてさらに期待できますね。

今井さん 特にママさんにもいいと思いますよ。腸内細菌っていうのは生まれたときから少しずつ作られ初めているので、子どもの頃から免疫力が上がることにつながればいいなと思っています。

ーー 今井さんはご自身も実際に仕込みに携わられながら販売もされています。仕事でこだわっていることはなんでしょうか。

納得して買ってもらうことを大切に

今井さん うちの味噌が食べてみたいって言ってわざわざ来てくださる方には、必ず何種類も試食をお出しして味噌の説明をして、本当に納得して味噌を買っていただきたいなと思っています。

試食しないでいいっていう方もいらっしゃるんですけれども、それでも良ければ召し上がってみてくださいって。味噌の良さを納得して買ってもらうことが、私達が今一生懸命やってることです。

ーー 香織さんの座右の銘を教えていただけますか?

今井さん 座右の銘というほどでもないんですけれど、諦めないっていうことかな。いろんなことを長くやってると、しがらみがあったり、何かやってはいけないのではないか、とか。

でもそうでなくて、やりたいと思い続けるとどこかで扉が開いて、自分がやりたいことができるようになるような。やっぱり諦めないっていうのが大切だと思います。

ーー シンプルながら素晴らしい言葉をありがとうございます。最後に、ニッポン味噌道中にお越しいただく方々にメッセージをお願いいたします。

今井さん 味噌に対してアユミさんは熱い思いを持ってるので、熱い思いに押されて私も一生懸命やってるところから学ぶべきこともいっぱいあります。

私が思いもつかない素敵なイベントをしているので、ぜひぜひ足を運んでください。いろんなお味噌を食べ比べていただく機会はなかなかないので、ぜひ食べ比べていただきたいと思います。

ーー 今井香織さん、味噌玉造りの貴重なお話や情熱的なお話、ありがとうございました!

 萬年屋さんは、通常の麹造りも昔ながらの麹蓋(こうじぶた)を使っていらっしゃいます。以前、古くなって使えなくなった麹蓋を萬年屋さんから譲っていただいたことがあります。今では職人さんがいなくなり、もう新しく作ることはできなくなった貴重な麹蓋です。

実は、今回の江別 蔦屋書店さんで開催中のニッポン味噌道中では、ディスプレイに萬年屋さんの麹蓋を使わせていただいているんです!

ぜひ、良い菌がたっぷり住んでいる本物の麹蓋をみて触れてみてくださいね。

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